火星操舵

Steering Mars

ボカロ曲レビュー2:100回嘔吐 / "吐き出す"

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わたしとあなた、二人の吐き出す二酸化炭素

 

ボカロ曲には「ポップ・レクイエム」というジャンルタグがある。
普通、レクイエム(鎮魂歌)というのは『死を想う楽曲』という性質ゆえ、悲壮感漂う曲調だという先入観がある。
しかしそれに、敢えて明るくポップな音楽を付けた追悼歌が「ポップ・レクイエム」だ。
小林オニキス氏が2008年に投稿した"サイハテ"という作品のタグを発端とする「ポップ・レクイエム」という造語。
きっかけは視聴者の遊び心であろうが、作風を端的に言い表した表現として、ニコニコ動画内では浸透したものとなっている。

さて、これから紹介する"吐き出す"という作品は、ポップ・レクイエムの本流をなぞったような特徴を持っているといえる。

歌詞中に「死」という語は一つも表れず、代わりに、死の隠喩として「煙」(=火葬)が用いられている。
この点は"サイハテ"と通じるものがある。

"吐き出す"の歌詞のポイントとしては『二酸化炭素』というワードにある。
歌詞の冒頭にも

"二酸化炭素を吐き出して"

とあるとおり、「わたし」が吐き出した「息」に含まれる二酸化炭素
そして、「あなた」の「死」の隠喩である「煙」。火葬は当然、二酸化炭素を排出する。
生きている「わたし」と亡くなった「あなた」。
『生』と『死』という真逆の概念を『二酸化炭素』というキーワードで結び付けて表現したその巧妙さに、ただただ感服する。

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■music:100回嘔吐
■illust:月見里春
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このレビューは、かつて所属していた楽曲レビューサイト「DAIM」に寄稿したものを再編集したものです。